「勝てる戦略」をAIに聞くより、10部署の投資会社を作ることにした

複数の研究デスクが中央の計画机につながるAI投資会社のイメージ

連載「10部署のAI投資会社」第1回/全12回

システムトレードの研究をAIに手伝ってもらうなら、最初に必要なのは優秀な売買ロジックだと思っていました。

実際に始めてみると、それより先に必要だったのは、研究を却下し、データ不足を見つけ、リスクを止め、次の作業を忘れないための「会社の形」でした。

この連載では、Codexと一緒に作ってきた個人の投資研究環境を記録します。成功した戦略だけでなく、ベンチマークに負けた検証、集められなかったデータ、VPSの負荷、途中で止めた自動化も含めて残します。

出発点は「フォルダを分けたい」

最初の発想は、システムトレードの作業をフォルダごとに分け、それぞれにAIエージェントの担当を置くことでした。

一つのAIが、戦略を考え、データを集め、バックテストをし、リスクを審査し、注文まで出す。それでは、自分が考えた戦略を自分で承認することになります。

人間の会社でも、営業担当が会計監査まで一人で行うのは危険です。投資でも同じだと考えました。

そこで、研究、データ、バックテスト、リスク、ポートフォリオ、投資委員会、執行、監視、報告・監査、秘書という10の役割に分けました。

段階 部署 主な役割
考える 研究・戦略 市場ごとの仮説と売買ルールを作る
集める データ 価格、財務、イベント、口座データを整える
確かめる バックテスト コストを含めて過去データで検証する
止める リスク 最大損失、データ不足、実運用上の危険を審査する
組み合わせる ポートフォリオ 資金配分と戦略間の偏りを調整する
決める 投資委員会 採用、保留、却下を決める
動かす 執行 承認された注文だけを扱う
見張る 監視 API、口座、ポジション、異常を監視する
残す 報告・監査 結果と判断の根拠を記録する
引き継ぐ 秘書 TODO、日程、次回作業を管理する

部署を作っただけでは自動化にならない

「AI投資会社」と書くと、多数のAIが24時間、自律的に会議して取引しているように聞こえるかもしれません。

実際は、最初に作ったのはフォルダ、役割説明、権限ルール、inboxとoutboxです。そこから少しずつ、定時データ取得、バックテスト、メール通知、ダッシュボード更新をスクリプトとタイマーに移しました。

現在も、すべてが無人で動くわけではありません。ログインに人の認証が必要な画面もあり、本番注文は明示的に承認するまで無効です。

つまり、自動化の完成度を見せる話ではなく、どの仕事を機械に渡し、どこに人の判断を残すかを決めてきた話です。

研究から運用までの流れ

仮説を作る → データを確認する → バックテストする → リスク審査する → 採用を決める → 執行・監視する

問題が見つかった場合は先へ進まず、戦略部またはデータ部へ戻します。本番注文だけは、この流れの最後で人が明示的に有効化します。

最初の戦略は、そう簡単に勝てなかった

日本株、米国株、FX、コモディティ、Bitcoinなどを市場別に分け、モメンタム、トレンド、ブレイクアウト、キャリー、逆張り、イベントなどを試しました。

しかし、バックテストがプラスでもベンチマークを超えない、ドローダウンが大きい、コストを入れると消える、データ期間が短いという結果が続きました。

そのたびに、戦略部だけで改良を繰り返すのではなく、データ部に戻ったり、リスク部に却下させたり、市場ごと休止したりしました。

勝てない戦略をたくさん作ったことは、一見すると回り道です。一方で、却下の基準がなければ、どれか一つの好成績だけを見て本番に入れていたかもしれません。

見た目の成績 実際に止めた理由
利益は出ている ベンチマークを下回る
勝率が高い 一度の損失が大きすぎる
バックテストは好調 スプレッドや手数料を入れると利益が消える
最近は強い データ期間が短く、地合いが偏っている
年率が高い 必要証拠金や含み損を含めると資金効率が低い

戦略よりデータの方が難しかった

研究を続けると、ロジックよりもデータの問題が大きくなりました。

必要な銘柄がそろっていない。財務データが、当時の投資家が知り得ない情報を含んでいる。分足が直近期間しかない。APIの取得制限で止まる。ブローカーによってスワップや取引単位の表示が違う。

バックテストの数字がよくても、入力データの条件が違えば結論も変わります。

ここから、データの出所、取得期間、欠損、代替データかどうかを記録し、基礎データが古ければ候補生成そのものを止める設計に進みました。

Codexが常時動く必要はなかった

初期は、定期作業をCodexに実行させる考えもありました。しかし、それではトークンを消費し、パソコンがオフのときに動きません。

そこで、決められた処理はVPSのスクリプトとタイマーへ移しました。データ取得、ランキング更新、リスク判定、メール通知、バックアップは、AIが毎回考え直す仕事ではありません。

Codexの役割は、異常の調査、新しい戦略の検討、ルールの改善、結果の読み解きに絞る方が合理的でした。

Codexが担当すること VPSが担当すること
新しい仮説を考える 定時にデータを取得する
異常の原因を調べる 決められた計算を繰り返す
検証結果を比較する リスクゲートを定時実行する
ルールの改善案を作る メール通知とバックアップを行う
人と相談して判断する パソコンがオフでも処理を続ける

現在地

現在は、主に次のような仕組みがあります。

  • 市場データと口座状態を集める処理
  • 戦略ごとのバックテストと紙上フォワード
  • 取引候補と見送り理由の記録
  • データ日付、API接続、口座、未約定注文のチェック
  • 戦略別の損益、ドローダウン、最終判定日のダッシュボード
  • メール通知、カレンダー、タスク、バックアップ

現在の構成

市場・口座データ → VPSの定期処理 → 候補生成とリスク判定 → 紙上フォワード → ダッシュボード・メール

この流れの外側でCodexが結果を読み、異常調査や次の研究を行います。定型処理と、毎回答えが変わる仕事を分離した形です。

ただし、これらがあることと、本番取引で利益が出ることは別です。まだ紙上フォワードとドライランの比重が大きく、実約定のスリッページや運用障害はこれから確認する部分が残っています。

この連載で書いていくこと

この研究には、一本の記事では収まらない履歴があります。

J-Quantsの取得制限、FXスワップ裁定、Bitcoin戦略のv1からv3、日本株グロースのGU・GD研究、空売り在庫、Windows VMとkabuステーションAPI、ダッシュボード、通知の整理。

次回は、10部門をどのように分け、どの部門が他部門の仕事を直接変更できないようにしたのかを紹介します。

次回:AI投資会社の10部署。なぜ戦略部に注文を出させないのか


※本記事は個人の投資研究と開発の記録であり、金融商品の売買推奨や投資助言ではありません。過去の検証結果は将来の成果を保証しません。