AIエージェントを「部署」に分けて、投資の仕組みを作る。止める役を別にした理由

12 / BUILD AGENTS AIを部署に分けて動かす

個人の投資戦略を、AIエージェントの「部署」に分けて組み立てています。前回の記事では、その仕組みを GitHub と VPS(レンタルサーバー)で動かし、本番を安全に更新できるようにした作業を書きました。

今回は、その土台になっている「部署」の考え方を書きます。なぜ1つのAIに全部を任せず、わざわざ部署に分けたのか。分けてみて、実際に部署が何を止め、何を指摘したのか。うまくいかなかったことも含めて記録します。

1つのAIに任せると、何が困るのか

AIエージェントは、頼めば調べものも、プログラムも、検証も、一人でこなしてくれます。

ただ、投資の仕組みでは、一人で全部やることに不安がありました。戦略を作ったAIが、その戦略の検証もすると、自分の作ったものに甘くなるおそれがあります。人の組織でも、作る人と確かめる人を分けるのは、同じ理由だと思います。

もう1つは、記録です。一つの長い会話の中で全部を進めると、どの判断がいつ、何を根拠にされたのかが、後から追いにくくなります。

そこで、仕事を会社の部署のように分け、部署ごとに役割と、書き込める場所を決めることにしました。

6つの部署と、社長役

部署は今、6つあります。前回の記事で紹介した5つに、発信を担当する広報部を足しました。

  • 経営企画:全体の方針と、戦略ごとの資金配分を決める
  • リサーチ部:市場の環境やデータを調べ、新しい戦略のアイデアを探す
  • 戦略部:個別の戦略を作り、過去のデータで検証する
  • リスク管理部:本番に出す前に戦略を検証し、全体のリスクを見る
  • 運用部:本番のサーバーを動かし、毎朝のシグナル配信を見守る
  • 広報部:取り組みを記事にする。この記事の下書きも、広報部のエージェントが書いています

使っているのは Claude Code の「サブエージェント」という機能です。部署ごとに設定のファイルを1つ作り、担当する仕事、使ってよい道具、守ることを書いておきます。

私が話しかけるのは「社長役」のAIだけです。社長役が依頼の内容を見て、合う部署に仕事を振ります。部署の仕事が終わると、結果が社長役に戻り、社長役が私に報告します。

部署のあいだの決まり

部署に分けただけでは、ただの役割分担です。大事なのは、部署のあいだの決まりだと考えています。今は次のように決めています。

書き込めるのは、自分の部署のフォルダだけ

部署ごとにフォルダがあり、他の部署のフォルダは読んでよいが、書き込むのは自分の部署のフォルダだけ、という決まりにしています。

たとえばリスク管理部は、戦略部のプログラムを読んで検証しますが、直すことはしません。問題を見つけたら、報告に書いて戦略部に返します。直すのは戦略部です。検証用のプログラムも、リスク管理部は自分のフォルダに置きます。戦略部がそれを使いたいときは、自分のフォルダに写してから動かしていました。

こうしておくと、「誰が、何を変えたか」がフォルダを見れば分かります。検証する側が、検証される側のものを書き換えてしまうこともありません。

ただし、これは今のところ、設定ファイルに書いた「指示」で守らせている決まりです。道具の上では書き込みができる状態で、仕組みとして禁止しているわけではありません。

リスク管理部が承認していない戦略は、本番に出さない

戦略部が作った戦略は、リスク管理部の検証を通らないと本番に出しません。リスク管理部は、報告の最初に「承認」「条件付き承認」「不承認」のどれかと、その理由を書きます。

本番の変更と、実際の注文は、人が決める

本番のサーバーを変える前には、必ず私が承認します。毎朝届く推奨メールに直接影響するからです。

実際の注文も、AIではなく私が出します。AIがするのは、推奨と計算までです。記事の公開も同じで、広報部が作るのは下書きまでにしています。

関連記事:AIに任せる作業と、人が確認する作業を分ける。WordPress記事制作で決めた境界(同じ考え方で、記事づくりの境界を決めた記録)

数字には、期間と出どころを添える

成績やパラメータの数字を書くときは、いつからいつまでの計測で、どのデータを使ったかを必ず書きます。同じ戦略でも、期間やデータが違えば数字は変わります。出どころのない数字は、あとで比べようがありません。

記録は、部署ごとに日付つきで残す

部署の成果物は、それぞれのフォルダに「日付_内容」という名前で残します。判断の理由が文章で残るので、後から読み返せます。

部署が実際に止めた・指摘したこと

部署に分けてまだ日は浅いのですが、すでにいくつか、部署が止めたり指摘したりした出来事がありました。成績の数字は載せず、何が起きたかだけを書きます。

リスク管理部が、動いている戦略を「不承認」にした

最初の戦略は、部署を作る前から本番で動いていました。毎朝、推奨メールを出していたものです。これをリスク管理部にあとから検証してもらったところ、結論は「不承認」でした。

主な理由は次のとおりです。

  • 成績として見ていたバックテスト(過去のデータでの試算)と、本番で動いているプログラムが、実は別物だった。成績には損切りなどのリスク管理が含まれていたが、本番のプログラムには入っていなかった
  • 調整したはずのリスク管理の設定が、プログラムの作りの問題で、一度も効いていなかった。どの値に変えても、結果が同じだった
  • 本番と同じ条件でつけていた記録(フォワードテスト)が、データの欠けた日を含んでいて、検証として使えなかった

リスク管理部は、不承認にするだけでなく、よかった点と、承認を検討し直すための条件も一緒に書いてきました。それを読んで、私はこの戦略を「ペーパー運用」に切り替えることにしました。推奨メールは今までどおり届きますが、それを見て実際に注文するのは控え、記録だけを続けています。

2本目の戦略で、「止まるべきときに止まらない」穴が見つかった

2本目の戦略は、実際のお金を使わないペーパー運用から始める準備をしています。その前に、戦略部は「データが壊れていたら、推奨を出さずに止まる」仕組みを作り、データをわざと壊して、止まることを確かめていました。

ところが、リスク管理部が別の壊し方を試すと、その多くで止まりませんでした。さらに、無料のデータ源から取った実際のデータに、ある日だけ価格が本来の100分の1になっている値が入っていることも見つかりました。そのまま動いていれば、資金をはるかに超える量の注文を出す計算になっていました。ペーパー運用を始める前だったので、実際の注文にはなっていません。

戦略部が止まる仕組みを直し、リスク管理部がもう一度確かめて、ペーパー運用は条件付きで承認されました。作った本人の確認だけでは、思いつく壊れ方に限りがある。検証を別の部署にした意味を、一番感じた出来事でした。

リサーチ部が、データの利用規約を読んで、AIとの付き合い方が変わった

株価のデータを提供するサービスを使うにあたって、リサーチ部に利用規約とよくある質問を読んでもらいました。生成AIにデータを入力する場合の条件が書かれていたためです。

リサーチ部は法律の専門家ではないので、報告は「規約をこう読んだ」という整理で、断定できない点もそのまま残っています。それを読んだうえで、私は慎重な側の運用を選びました。AIサービスの「学習への利用」の設定をオフにしたうえで、データのファイルそのものはAIに読ませず、集計した値だけを渡す、といった決まりです。データの扱いを、使い始める前に決めておけたのは、規約を読む役を別に置いていたからです。

うまくいかなかったこと

ルールを作る前に、最初の戦略は本番に出ていた

「承認のない戦略は本番に出さない」という決まりは、最初の戦略が動き始めた後に作りました。最初の戦略はこの決まりを通っておらず、あとから検証して不承認になりました。順番が逆だったことになります。

指摘する側も、間違えることがある

リスク管理部が出した修正の案を、戦略部がそのまま入れたところ、過去の実際のデータで誤って止まってしまう箇所がありました。戦略部は理由を書いて、案を少し変えて入れました。どちらかが一方的に正しい、という関係ではありません。お互いの報告が文章で残っているので、何をどう変えたかは後から追えます。

部署が増えても、決めることは減らない

部署は材料を集め、案を出してくれます。でも、運用する資金の額や、どこまでの下落なら許せるかといった大事なことは、私が決めるまで止まったままです。今も、決まっていない項目がいくつも残っています。部署に分けたことで、むしろ「人が決めるべきこと」がはっきり見えるようになった、とも言えます。

会話の記録が、30日で消えていた

部署の報告はファイルで残していましたが、AIとの会話の記録そのものは、初期設定では30日で消える設定でした。気づいたときには、5〜6月ごろの作業の会話がすでに消えていました。今は保存期間を延ばし、毎日別の場所にバックアップしています。

関連記事:AI作業が途中で止まっても再開できるようにする。指示書と作業記録の残し方(会話に頼らずに続きを残す方法)

まだ分からないこと

部署に分けたことが、長い目で見てうまくいくのかは、まだ分かりません。2本目の戦略のペーパー運用も、これから始まるところです。部署の数が今のままでよいのか、部署どうしの決まりを指示ではなく仕組みで守らせるべきなのかも、運用しながら考えていきます。

やって分かったこと

部署に分けて一番よかったのは、「作る役」と「止める役」を別にしたことです。リスク管理部の不承認も、止まる仕組みの穴も、作った側だけでは見つかっていなかったと思います。

もう1つは、止める基準を先に文章にしておく大切さです。リスク管理部は、どうなったら承認するのかを書いて返してきました。不承認でも、次に何をすればよいかが分かるので、話が前に進みます。

AIに仕事を任せるほど、どこで人が判断するかを決めておくことが大事になる。部署に分けてみて、そう感じています。

関連記事:AIの「投資会社」をGitHubとVPSで運用する。本番を安全に更新できる仕組みを作った

シリーズの目次:AIに作業を任せるときの決まり(このテーマの記事を、読む順に並べています)

※ この記事は、仕組みづくりの記録です。特定の銘柄や投資手法をすすめるものではありません。投資の判断は、ご自身の責任で行ってください。